任天堂ノスタルジー 横井軍平とその時代

任天堂と言えば日本を代表する、「ファミコン」「ゲームボーイ」「ニンテンドーDS」など、
世界でも広く知られた製品を作り続けているゲーム開発企業。
任天堂のユニークなところは、世間で行われてる技術競争とは一線を画し、
「誰もが楽しめる遊び」を提案し続けていることだと、僕は思っています。

こうした任天堂の考え方は、任天堂の元開発部長にして、
「マジックハンド」や「光線銃」といった玩具を生み出してきた
横井軍平氏の哲学である「枯れた技術の水平思考」という考え方が
今も息づいているからであると、本書では述べられています。

「枯れた技術の水平思考」とは、横井氏の言葉にある
「最先端技術を追いかけるのではなく、使い古されて、
価格も安くなっているちょっと古い技術」のこと。
これを、「一歩ひいたところからフラットに考えてみる」ことで、
別の使い道が見えてきて、それは「世界にひとつしかない商品になる」とし、
単なる高スペック勝負に走るのではなく、
「ユーザーが本当に求めていること」を如何にして実現するかを考えるということ。
それが、今後日本がグローバル経済の中で生き残っていく鍵となる、と述べられています。

言葉だけみると当たり前に思える内容ではありますが、
改めて忘れてしまいがちな視点を改めて突きつけられたように思いました。

また、横井軍平氏は発想の天才であるだけでなく、
物事の考え方も理路整然としており、そのエピソードは非常に心に届くものとなっています。

彼は新入社員がアイディアを出した場合、それが有望であれば、
自ら社長のところまで連れて行き、その新入社員の口から説明させ、
手柄を横取りすることなく、やる気を引き出した、と言います。

非常に些末なエピソードではありますが、こういった自由な発想を助ける風土こそが、
任天堂のユニーク、かつユーザーの目線に立った商品の開発力の基盤になっているのではないでしょうか。
また、本書の最後では、任天堂の今後について識者の対談が収録されており、
「モバイルという新しい分野でやや苦戦も感じられる任天堂だが、
きっと我々をあっと言わせるような遊びを見せてくれるだろう」という期待が語られています。

残念ながら1997年に横井氏は交通事故で亡くなってしまったのですが、
今でも彼の考え方は任天堂の中で強く息づいているのでしょう。
「モノづくり」に関わる人には、特に興味深い内容になっていると感じました。

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任天堂ノスタルジー 横井軍平とその時代 (角川新書)
KADOKAWA / 角川書店 (2015-06-10)
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