「のび太」という生きかた

「ドラえもん」には名言が多いと言われます。
「さようならドラえもん」におけるのび太のセリフ、
「のび太の結婚前夜」におけるしずかちゃんのお父さんのセリフなど、
幼少の頃に読んだにもかかわらず、今も心に残っている言葉が少なくありません。

この本では「ドラえもん学」を研究している筆者が、
「のび太」という存在を通して学ぶ、「幸せをつかむ方法」を考察されています。
「ドラえもん」という存在を得ることで、将来的にしずかちゃんという
最高の伴侶を得た「のび太」ですが、これは決して奇蹟や偶然ではなく、
のび太元来の優しさや、何度倒れてもくじけない強さによるもので、
ドラえもんのひみつ道具はそのきっかけにすぎない、ということを、
多くのエピソードを通じて解説しています。

「のび太」の射撃やあやとりの天才的な腕前についてはよく知られていますが、
確かに「優しさ」や「強さ」といった側面は、大長編であればともかく、
通常の短編ではあまりクローズアップされてないかもしれません。
筆者は、「ドラえもん」は無制限に「のび太」を甘やかす存在ではなく、
この「優しさ」「強さ」を引き出す存在として、ひみつ道具を与えていると論じています。
また、「台風フー子」という無生物にさえ心通わせる優しさや、
何度失敗してもめげない強さが、最終的に「のび太」が幸せを手に入れた
源であると様々な角度から検証し、結論づけています。

豊富なエピソードによってとても読みやすい内容となっていますが、
著作権との兼ね合いのためか、文章によるあらすじ紹介となっているため、
原作のコミックスが未読だったり、記憶が薄かったりする人には
若干イメージしにくいかもしれません。
また、やや強引に「のび太」を美化しているように感じられる部分もありますが、
読み終わったあとにはなんだか「のび太」を見習いたくなる、興味深い一冊でした。

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「のび太」という生きかた―頑張らない。無理しない。
横山 泰行
アスコム
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